サイレンススズカ

〜HAPPY SMILE HORSE〜

1994年5月1日、北海道は平取の牧場で1頭の栗毛の男馬がこの世に生を受けた。
誰よりも速く、美しく・・・何よりも走る事が好きだと言わんばかりのその姿に「音速の貴公子」と名付けられたのは何の不思議もない。
サイレンススズカ・・・私にとって彼との出会いは一生忘れられないものになった。
思い入れのある馬はいるけれど、それとは別に昔の様に個性の強い馬がなかなかいない・・・と思い始めた頃、彼のパフォーマンスは私にとって衝撃的な出来事だった。
1997年3月2日弥生賞、サイレンススズカにとって2戦目になるレース。
スタート前に彼はゲートをスルっと潜り抜けてしまった・・・本来ならアクシデントと思うだろう状況にも拘わらず、私はあまりにも柔らかく綺麗に潜り抜けてしまった彼の姿に何だか不謹慎ながらも妙に嬉しくなってしまったのを覚えている。
その後、スズカは順調に成績を残すも日本ダービーを境に低迷・・・。
しかし、翌年の1998年2月14日東京競馬場で行われたバレンタインSから彼の本当の伝説は始まった。
背に跨るは天才の名を欲しいままにする武豊騎手、同騎手は以前からスズカのレースを見て「あの馬は気持ちのままに任せて走らせないとダメになる」と関係者に提言していたという。
その言葉を待ってました!と言うかの様にスズカは気持ちのままに走り抜け中山記念を皮切りに重賞6連勝、悲願のGI優勝・・・宝塚記念馬に輝いた。
それらのレースの中にはエルコンドルパサー、エアグルーヴ、ステイゴールドなどが名を連ね、一線級も一線級と言われた彼らがスズカの影さえも踏めなかった・・・。
私が彼に初めて会ったのは、1998年の残暑厳しい頃だった。
当時、カメラの仕事をしていた私に大きな仕事の依頼がきた・・・「サイレンススズカの写真取材」。
彼の住む栗東トレーニングセンターの門前でタクシーを降り、厩舎へ行く途中に何度も深呼吸して歩いたのを今でも覚えている。
厩舎に到着すると担当の厩務員さんが笑顔で迎えて下さり、スズカを丁度手入れするからと洗い場で会わせてくれた。
初めて間近で目にするサイレンススズカはとっても小柄・・・でも弾ける様なパンっとしながらも柔らかい身体をした馬だった。
実際、彼は馬房の中でグルグル回る癖があり、それは身体の柔らかい証拠だと言う・・・やっぱりあのゲート潜り事件は身体の柔軟性が原因だったのか〜なんて思ったりした。
彼の父はサンデーサイレンス・・・彼の産駒は気性の荒い事が多い。
写真取材の時になるべく被写体となる馬とコミュニケーションを取らせてもらってから撮影に入る私は、あれだけ走るんだから気性が荒くても仕方ない・・・と半ば覚悟と諦めを感じたのだけど、スズカは実は父親が違うんじゃないか?と思わせるほど落ち着いた大人しい性格だった。
オレンジ色の強い毛色に似た柔らかい雰囲気を持った馬だった。
一通り撮影が終わり、馬房で昼飼いをもらってご満悦のスズカを前にして厩務員さんと談笑していると、スズカが2メートル程離れた私に向かって何かを放った・・・。
見てみると飼葉の中にあったブロック状に栽培されてる柔らかい青草だった。
「ダメだよ〜。ちゃんと食べないと!」なんて言いながら飼い桶に戻すと、また投げて寄こす・・・何度かそれを繰り返し、厩務員さんの顔を見ると「きっと、スズカは貴方に食べろ!と言うてるんやわ」と笑った。
懲りずに投げて寄こすスズカに申し訳なさを感じて、その青草の先をちょっと齧りながらスズカの顔を見ると「やっとわかったか!」と言わんばかりにブルルと鼻を鳴らして飼葉桶に顔を突っ込んだ。
嘘みたいだけど本当の話・・・。
帰りがけに「今度はゆっくり仕事じゃなくて遊びにきてや〜」と厩務員さんに嬉しいお言葉とその背中越しにこちらを見てるスズカの顔を最後に栗東を後にした。
楽しい思い出や嬉しい瞬間はいつも最後に訪れる・・・それが本当に最後で最期だった。
今でもあのレースは見る事が出来ず、キーを打ってる今も心臓をわしづかみされた気持ちになる・・・。
11月1日天皇賞・秋・・・いつもの様に楽しく、美しく走る彼はそのまま誰も追いつけないまま天に駆け昇ってしまった。
彼の最期はこれ以上は書かない事にしよう・・・。
強い日差しが照りつける中で撮ったオレンジ色に光るスズカの大量の写真・・・その中に「笑ってるの?」と色んな人から言われた写真が何枚かあった。
ニッコリというよりもは優しく微笑んでる様な表情の写真・・・。
写真はその一瞬を切り取るものだから、たまたまなのかも知れない・・・人によっては「笑ってなんかないじゃん」って感じるだろう・・・でも、私は笑ってると思いたいし・・・そう思ってる。
スズカが「自分は幸せだったから・・・」と彼がいなくなった事で開いてしまった穴を埋める為のスズカからの優しいメッセージだと思いたかった。
その写真は私にとって一番大切な写真となり、いつか馬の伝える「幸せ」「HAPPY」を自分なりに伝えられたら・・・という気持ちが生まれた。
「HAPPY SMILE HORSES !」を開設した根底には、そのスズカの笑顔がある。
競走馬は走る事を止めたら生きてはいけない・・・それはサラブレッドを作り出した人間のエゴ・・・。
サラブレッドの美しさはどこか切ない気持ちと重なるけど、サイレンススズカの残してくれた「HAPPY SMILE」はそんな気持ちをオレンジ色の毛色の様な暖かさに変えてくれる。
彼の笑顔が心にある限り、これからも多くの馬達の「HAPPY SMILE」に出会えると思っている。
沢山の思い出と最高の笑顔・・・幸せを伝えてくれたサイレンススズカにこれ以上ないありったけの感謝を!!



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