翔飛(メジロヒラリー)

〜TO THE PEOPLE WHICH WAIT FOR YOU 〜


「ドーベルの仔が産れました!初仔なのでちょっと小さいけど元気な女の子です。」とメジロ牧場の友人からメールが来た日、とうとうドーベルも母親になったんだなぁ〜という感慨深さと喜び、そして子供に早く会いたい!という思いでごちゃまぜになったのをつい昨日の出来事の様に今でも憶えている。
翌日にでも北海道に飛びたい気持ちだったけど、これから多くの出産を控える時期の繁殖牧場に訪れる事を自分で自分に規制している。
もちろん、忙しい時期に訪れる事でスタッフの方々にご迷惑をかけるのも理由の一つだけど、何より普段から競走馬や乗馬と接する機会の多い私は流産菌などの細菌を運び入れてしまう恐れがあるからだ。
競走馬や乗馬では保持していても問題のない細菌が繁殖馬にとっては大変な状態を引き起こしてしまう事がある。
私が運び入れる確立はもの凄く低いのだけど、それが0%でない限りそれを許す訳にはいかない。
そんな理由から、待って待って待ち焦がれてやっと6月になってドーベルの初仔(血統名は翔飛)に会える事になった。
伊達にあるメジロ牧場(伊達は繁殖、洞爺は育成・休養と分かれている)の敷地に入って、すぐの放牧場にドーベル母娘がいた。
事前に写真を送って頂いていたので、どんな顔なのか頭に入っていたけど遠目ではなかなか見つからない・・・。
放牧場内に入れて頂いて、何組かの親子が集まる場所へ近づくとそれまでお昼寝タイムだった子供達が知らない人間に興味津々とばかりに起き上がった。
その中から翔飛を探せど、どうやらいないらしい・・・。
すると、1頭だけまだバタンと手足を投げ出して寝ている仔馬が・・・もしや?と思い近づくとビンゴ!!
それが翔飛だった。
普通はある程度人間が近づくと草食動物の本能なのか大抵は首を上げて様子を見たり、起き上がったりするのだけれど彼女は全く起きようとしない。
頭のすぐ側に座っても、顔を撫でても寝たまま・・・。
かなり肝が据わってる仔だなぁ〜と感心した。
カメラのシャッターを切ってる途中でやっと1回だけ頭を起こしてくれて、その時に撮れた写真は私の大切な写真の一枚になった。
その後、やっと起き上がったと思うと見知らぬ人間がそんなに珍しいのか私は彼女に小突き回され、カメラレンズに鼻を突っ込まれ、ジャンパーを引っ張られるというフルコースを味わった。
大抵、牝馬は興味があってもすぐに近寄ったりせず、逆に牡馬はすぐに寄ってくるのだけれど翔飛は女の子なのにどちらかというと男の子に近い感じで、ママのドーベルも男勝りだったから、これも当然なのかな?なんて思ったりもした。
おまけにドーベルが現役時に何度も披露してくれた回し蹴りまで真似して見せてくれた。
その頃はまだまだあどけなさいっぱいだった彼女も毎回会う度に立派になり、最初は群れのボスであるメジロピカールの仔(翔輝)にちょっかいを出されっ放しだったのが馴致が始まる頃には翔飛の方がボスになっていた。
「馴致が始まると、それまでの性格がガラっと変わってしまう事が良く見られるんだよ」と牧場の方が教えてくれた。
ドーベルも最初は先住馬にちょっかい出されてたけど今では立派なボス・・・翔飛の妹(ドーベルの第二子)の優飛もボス・・・。
現役成績が良い馬=気性が激しい、根性があるという事からなのかボスになるのが必然的な場合があるそうだけれど、まだデビューしていない若馬達は成績なんかない訳で・・・母を見て育つのか、それとも血のなせる業なんだろうか?と考えてしまった。
私が翔飛に会いに来てるのが、彼女に分かるのか他の馬が私に近づくと「これは私のもの〜!」と言わんばかりに追い払う・・・。
その前の年までは当時のボスだった翔輝にやり返されて逃げ惑っていたのにこうも変わるものか!と驚いてしまった。
産れた時は初仔の為に標準より少しだけ小さく産れた翔飛だったけど、その名前に応えるかの様に心身共に大きく成長しているのを目の当たりにして今までにない喜びを感じた。
スタッフの方のどなたに伺っても「元気!」の二文字が出るのは本当に嬉しい事!
近況報告として牧場の方にビデオを送って頂いてるのだけれど、現在は軽めの運動をしながら今年のデビューに向けて順調にきているとの事。
母親も父親も素晴らしい成績と感動を与えた馬であり、父親のエルコンドルパサーは自分の産駒達がデビューするのを見ずに他界した・・・。
それだけに、何においてもそれ以上の期待や夢を背負う事になる翔飛・・・。
それでも、貴方を心から待つ人達がいる。
かつて母親を実の娘の様に愛した人、共に夢を追い求めた戦友、そして多くの大切な物を与えてもらった人達・・・。
もし、期待に疲れて、夢を背負う事が重たくなったら頑張らないでも良い・・・貴方を愛する人達は、貴方が貴方である事に何より喜びや幸せを感じるのだから。
貴方に初めて会う日を待って、待ち焦がれた様に貴方がメジロヒラリーとして名を呼ばれる日が待ち遠しくて仕方がない・・・。
◆右上の写真に映る栗毛の馬は翔輝(母:メジロピカール 父:ダンスインザダーク)で競走馬名メジロウーピーに決定。
  関西の池江厩舎に所属予定です。


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